根付製作の材料と道具
●黄楊(つげ)
木の根付材料として使われるもののうち、代表的なものが黄楊です。
昔から、櫛、印鑑、高級な将棋の駒などに使われ、重宝されています。
成長が遅いため、年輪が緻密で硬く、根付のように細密な彫りをする工芸に適しています。木肌は薄い黄色をしています。
黄楊の入手は、我々素人にとっては最大のネックになると思います。
銘木などを扱う材木店をこまめに当たれば、見つかるかもしれません。
ヤフオクなどでもいくつか出ていますが、手に取って確かめられないという欠点はあります。
私は東京へ行った際、新木場の「もくもく」で、長さ約80cm、直径約10cmの半割の黄楊(産地不明)を見つけ、\12,300で購入しました。
日本の黄楊では、産地により朝熊黄楊、薩摩黄楊などの名称がつけられています。中国産も出回っているようです。英語ではboxwoodといいますが、日本の黄楊と品質がどう違うのかはわかりません
いずれにせよ、材の良し悪しの判断基準は、いかに目が詰まっているか(年輪が密か)、節や割れが少ないか、です。
●彫刻刀
最もよく使うのは、印刀の12mmです。
あと、丸刃(がんとう)は、1.5mm、3mm、6mm、三角刃は1.5mm、6mmが最低必要です。
祖父が木彫りをやっていたので、そのお下がりがたくさんありましたが、根付を始めるにあたって、良い彫刻刀が欲しくなり、いろいろ探した結果、河清刃物さんの印刀12mm、丸刃1.5mm、三角刃1.5mmを新たに購入しました。
これは、青紙スーパーという鋼で作られています。
安来鋼の種類は、白紙→青紙1号→青紙2号→青紙スーパーの順に、炭素やタングステンやクロムなどの含有量が増え、硬度と耐摩耗性(長切れ)が増すとされています。
彫刻刀で青紙スーパーが採用されることは滅多にないとのことです。
硬度と耐摩耗性が向上する分、鋼の粘りが少なくなり、刃が欠けやすいと想定されるので、無理にこじるような使い方はNGです。
●皮研
板切れの両面に、皮の床面(裏面)が表にくるように貼り付け、片面に白棒、もう片面に青棒を摺りこんだものです。
白棒、青棒というのは、固形研磨剤の一種です。
白棒は粒子15ミクロン(#1500相当) 、青棒は粒子5ミクロン(#3000相当)とされていますが、メーカーによって差異があるようです。
彫刻刀の切れ味が悪くなれば、これでこまめに研ぎます。
研ぐ際は、「引き」の方向で研ぎます。(20回程度)
白棒(荒)→青棒(細)の順に研ぎます。(青棒だけでもいいかも)
これだけで、切れ味が格段に復活します。切れ味の確認は、試し切りの紙を、刃物を引かずにただ押すだけで切れるかどうかで判断します。
●染料
・茶粉
天然素材のような名前ですが、実際は工業製品のようです。
塩基性染料で、ビスマークブラウンとも呼ばれます。茶色の粉末状をしています。
「ネットdeシマモト」というところで購入しました。(50g、¥1,980)
茶粉単体では赤みの強い茶色になるので、後述するコールダイオールの黒色と混ぜて使います。
・コールダイオール
もともとは繊維の手染め用染料です。色の種類は数多くありますが、根付で主に使用するのは「ブロン」と「ブラック」です。(20g入りで500円くらい。)
「ブロン」とは何のことかと思ったら、「BROWN(茶色)」のことでした。
試しに、ブロン粉末2gを50ccのお湯で溶かし、これ単体で染色してみたところ、ほとんど黒に近い色になりました。
基本は茶粉と混合して使います。
・混合について
私の場合、茶粉2g+コールダイオールブラック1g+お湯50ccで混合したものを、濃い褐色に染めるための基本の染料としています。使うときは軽く湯煎して温めておきます。5回くらい重ね塗りします。
それと、暗さの調整のために、コールダイオールブロン2g+お湯50ccを作っておきます。
基本の染料で塗り重ねていって、赤みが強いと感じたら、コールダイオールブロン単体の液を、サッと塗ってすぐにふき取ると、ちょうどいい濃さになります。
暗くなりすぎたら、乾く前にティッシュにアルコールを含ませて拭くと、多少戻ります。
・夜叉
夜叉五倍子(ヤシャブシ)の実を煮出した液。ヤシャブシはカバノキの乾燥した実で、タンニンを多く含む染料です。松ぼっくりを小さくしたような形をしています。
熱帯魚のブラックウォーター作りにも使われるようです。
ネットで50個入り袋で、送料込み1000円くらいのを購入し、半分の25個を、実がひたるくらいの水で1時間ほど煮出ししました。
煮詰まってくるので途中で水を足し、火から下したあとは、実を取り除いてビンに移します。
1日くらい静置すると、ビンの下に灰色でドロドロのアクのようなものが沈殿するので、上澄みの褐色の液だけを別のビンに移し、さらにコーヒーの濾紙でこしました。
そのまま1週間ほど放置すると、表面にカビが生えてきますが、このカビは取り除かず、かき混ぜて底に沈めて使用するとのことです。
カビはその後も増え続けるので、かきまぜて沈めるを繰り返します。私の場合、液の体積の半分くらいが沈んだカビになり、塗るときにカビの小片がハケにつくようになったので、その段階で再度、コーヒーの濾紙でこしました。
夜叉は、ごくごく薄く着色します。題材によっては夜叉だけの仕上げとします。
染色した作品にも、仕上げとして2回ほど塗ります。
●作業台
25cm四方程度の板の裏表に角材を接着したもので、写真のように机に引っかけて使います。主に、ノミで荒取りする時に使います。
板はパイン集成材の端材、角材は35mmの垂木を使いました。
上面の角材は、痛めば交換できるように2連にし、中央にV型のくぼみを作っておけば、丸い材料も逃げずに保持できるようになります。
決まった大きさなどはないですが、合板は使わないようにします。
合板には硬化した接着剤が含まれており、それがノミの刃先を痛めます。
●ミニルーター
根付紐を通す穴をあけるのに使います。
私はプロクソンのミニルーターを使っています。
使う刃は、φ2.5mmの球形のハイスカッターです。
根付の条件として、どこかに紐穴があいていること、というのがあります。
穴のない根付は、「置根付」として、別の分類になります。
通常サイズの根付の場合、大小2つの穴をあけます。
穴は内部でつながっており、大きい方の穴は紐の結び目が納まります。
大きい穴は根付本体に対して垂直で、小さい方の穴は大きい穴に向かって斜め向きになります。
小根付の場合は、左右対称の小さい穴で、内部はU字型につなげます。
●サンドペーパー
#320、#600、#1000の3種類を使います。
#320は印刀の跡を消すための粗削り用です。
#600、#1000は、目詰まりを防ぐために水砥ぎするので、耐水性のサンドペーパーを使います。
あらかじめ使いやすいサイズにカットしておき、百均のケースなどに、番手ごとに収納しておきます。
●ノミ
荒どり段階で使います。なんでもいいと思います。私は洋ノミを使っています。
●ノコギリ
木取り段階で使います。これも何でもいいと思います。私は替刃式のゼットソーを使っています。
●拡大鏡
老眼がだいぶ進んできて、特に細密な加工をする際は厳しくなってきたので、眼鏡の上から付けられる拡大鏡をときどき使います。
●参考文献
『木で彫る根付入門』 中川忠峰 著(Amazonへのリンク)
伊勢根付の第一人者である中川忠峰氏が、初心者のために書いた入門書。
根付とは何か、歴史、道具と材料、基本課題の作例、応用課題、刃物の研ぎ方まで、懇切丁寧に解説してくれます。
基本課題は、栗、茄子、きのこ、瓢箪、落花生、筍の6つ、応用課題は、お多福豆、えんどう豆、蛤、柿、などが紹介され、それぞれ製作段階ごとの写真と解説が充実しています。
やや高価な本ですが、価格を十分に上回る価値があります。
これから根付を始める方は、まずこの本を購入し、隅から隅まで熟読したあと、製作途中もこの本を横に置き、常に参照することを強くおすすめします。